越智 康貴「『気持ちを流通させる』変わりゆく衝動の向く先に」

越智 康貴「『気持ちを流通させる』変わりゆく衝動の向く先に」

自分を愛するのは難しい。でも、自分自身の内なる価値に気づけていないだけだとしたら?ひとりひとりがスペシャルな存在。VERMILLIONのコンセプトである”IDENTIFY JEWELRY”を体現する、自分を表現して生きる人へのインタビュー。

フローリストとしてフラワーショップを2店舗経営。企業やブランドのイベント関連の花にまつわる装飾も行う越智 康貴(おち やすたか)さん。その他に個人で執筆や写真の仕事も行うなど、多方面で活躍をしています。

湧き上がる衝動や目には映らない感情。人も花も物も、すべてのものに心があるとしたら。越智さんの話を通して、自分やなにかの「あいだ」に生まれている、目には見えない気持ちを汲み取ることや、道しるべとなる星占いの日常への活かし方を探ります。

間(あわい)にある目に見えない気持ちを汲み取り、贈ること

ー 花を仕事にしたきっかけを教えてください。

文化服装学院という服飾の学校を卒業後、ファッション関連の専門学校に入学するまでの半年間、フリーター期間があったんです。やったことのないことをやってみたいと思い、百貨店にあるクラッシックなお花屋さんで働き始めました。

友人が花を頼んでくれたり、お店に飛び込んで花を使った装飾の仕事をもらったり。少しずつ活動を広げるうちに、ファッションブランドの「シアタープロダクツ(THEATRE PRODUCTS)」から「場所を貸すから花屋さんやってみないか」と声をかけてもらったことがきっかけで、いきなり独立。なので結局、専門学校にはまったく行かず、花の仕事をしていくことになりました。



ー 花を仕事にすると決断した理由は。

昔からとにかく攻撃的な衝動がずっとあって。うごめく闘争心のようなものを自分の内面に持て余し、発散する場所を必要としていたんです。エネルギーの逃げ場のような、その場所の一つが花だったのかなと思います。

ー 花のお仕事でどんなことを表現したいと思いますか。

花を使って「なにかを表現したい」という気持ちはまったくないんですよ。どちらかというと、お客さまがいて花があってそのあいだをどう結びつけたら面白いだろうという思考を起点に作っています。なので僕の作品は、具体的なイメージがそんなに浮かばないと思うんです。掴みどころがあるようなないような。

僕自身の内面もすごく流動的で。昔イギリスのロックバンド「レディオヘッド」が好きだったんですが、ボーカルのトム・ヨークが「3分くらいの曲でも3分のあいだに感情って変わらない?」みたいなことを言っていて。わかるなあと思うんです。一つの目的に向かってなにかを形にするとき、自分の気持ちが完成まで持続しないんですよね。

一方で、最近は挑戦として時間をかけてじっくりなにかを作ってみてもいいかなと思っています。生け花などもその一つですが、花はマテリアル自体が時間との闘いなので、花以外のものでチャレンジするのもいいなと。

ー お仕事を通して実現していきたいことはありますか。

「人の気持ちを流通させること」にもっとフォーカスを当てていきたいと思っています。

花を頼むときに、自分の気持ちをすべて言葉にできる人は多くありません。たとえば、退職する方がいて、花をあげたい。がんばってほしいから明るい花束がいいけど、その人はちょっと個性的だから変わった花も入れてみたい。こういう気持ちを一つずつ視覚化していく作業が花を束ねることだと思っていて。しかもその人が感じ取れていないことまでをフローリストが形にする。そしてお客様がそれを相手に贈る。

これが気持ちが流れている仕事だと思うんです。目には見えない「気持ち」が、花などの物体によって具現化されることで、形になって流れていくのは面白いなと思います。さらにこの流れの川上には、生産者や市場の方の気持ちもある。気持ちの流通は自分にとって大きなテーマだなと思いますね。

ー 感情をはじめとする目に見えないものを汲み取ることを大事にされているんですね。そのつながりで、アニミズムに共感されていると伺ったのですが、興味を持たれたきっかけは。

人類学者・奥野克巳さんの著作『モノも石も死者も生きている世界の民から人類学者が教わったこと』というアニミズムに関する本を読んだ時に、それまで自分が考えていたことや感じていたものが、言語化されていると思いました。

アニミズムというよりも、目に見えないものに惹かれています。目に見えないものとは、植物のエネルギーかもしれないし、人の気持ちや言葉の周りを包んでいるなにかかもしれない。気持ちの流通も目に見えないものを扱おうとしている。それらがアニミズムへの興味とつながっていますね。

ー 目に見えないものとは具体的にはなんでしょうか。

たとえばお母さまの写真が落ちてたとして踏めますか。少なくとも快くは踏めないですよね。でもただの写真です。だけど踏めないときに、そこには目に見えない「なにか」が働いてると思うんです。それをみんな簡単に「感情」と言葉をつけてまとめてしまうんですが、そのときに思い出している「なにか」があるんです。お母さんの写真を踏めないということは「なにか」を表していて、無意識下にあるものが表出している。それは人のあいだの話だけではなく、有機物と無機物のあいだ、たとえば機械とのあいだにもあるのかなと。

花束は自然とそういう観点を大事にして作っていますね。20歳くらいの男の子がお店に来て「初めて花を買いにきたんですが、彼女にあげたくて。一輪でもいいんです」と言われたときに「この花はこういう花言葉だからこれにしてみますか」と言ってしまうのは簡単なんですが、あえて「もし時間がおありで嫌じゃなければ、一番ピンとくるものを選んでもらっていいですか」と選んでもらう。そして「よかったら僕が選んだんだよって言ってお渡ししてください」と伝える。そこには目に見えないものが生まれている。それを大事にしながら、人の気持ちを流していく。そういうことに面白みを感じています。

変わりゆく衝動。暗さも違和感も内包して生きていく。

ー 越智さんの自分らしさについて教えてください。

自分らしさというより人間らしさなのかもしれませんが、多面的であることが面白いなと思っています。めちゃくちゃセンシティブで繊細なくせに、すごい無神経になれたり。自意識過剰な人が苦手だと思う反面、自分が自意識過剰になっていたり。そういう矛盾する自分を知覚できていることも、自分らしさの一つかもしれません。

くるくる変わる感情は切り替わりが緩やかなグラデーションなので、よく混乱します。自分がこうしたかったのに、叶った瞬間にものすごく悲しいとか。とても大切に育てたものなのに、すぐに破壊したくなるとか。そういうことを繰り返していますが、その衝動の向かう先がどこなのかは、自分でも楽しみですね。

ー 以前、自分らしさの一つに「暗み」があると伺いました。「暗み」とはなんでしょうか。

「暗み」とは内省性。自分の中にいる内向きな自分が、明るい予感を暗い方へ無理やり引き連れて行こうとするんですよ。僕は直感的なものに劣っている実感があって。こうなるだろうと思ったことは大抵そうはならないんです。特に悲観的な直感。その悲しい予測はほとんど起きず、逆になんで起きるのかと予測していないことばかりが起きるんですが、予測自体は止められないんです。この「暗み」は最終的に「不安」とも繋がり、自分の「闘争心」とも結びつきます。

人間がたくさんいるなかにいると違和感があるんです。知らない方の中でできあがっている僕のイメージにも違和感がありますし、家族との関わりも違和感、友人と話していても違和感。それらの違和感が集結して、ここにいるんだけど本当はいないんじゃないかという不安な感覚につながるんです。

その感覚を、肯定的に受け入れられる日もあれば、受け入れられない日もあります。モーニング娘。が好きだったんですが、第6期メンバーの田中れいなさんが「自分のことかわいいと思いますか?」と聞かれて「日による」って答えてたんです。それと同じだなと思います。

星占いは道しるべ。日常と星占いのあいだを行き来すること。

ー 星占いに興味を持ったきっかけを教えてください。

太陽の光を受けたら気持ちいいと感じますよね。月を見てしんみりしたりしますよね。僕にとって星占いはその延長線上にあったんです。季節の巡りがあって、なにかを意味する象徴があったこと。お花屋さんの役割である祝いごとや祭りなどの物日(ものび)をアニミズム的な思想で理解していたこと。自分の闘争心や不安はどこから来るんだろうという疑問。こういったものすべてが集合して、星占いへの興味に結びつきました。

以前、会社の経理の人が占星術をしてもらったらしく「実は越智さんのことも見てもらったんだよね」と言われたことが、ダイレクトに占星術と関わるきっかけでした。そこで言われた言葉が気にかかって、これは自分で解明したほうが面白そうだと思ったんです。特に興味を持ち始めたのは2022年9月頃、比較的最近です。

ー 星占いをどう捉えていますか。

占星術だけに限らず占い全般に対して思うのは、占う側が、相手が明らかに予測していない事項を発言するのはタブーなんじゃないかなという感覚があるんです。ネタバレみたいな気がしてしまって。

星占いは、時計の針みたいなもの。どういう順番で湧き上がる衝動や象徴的な出来事が巡ってくるのか。その時計の針がいつ巡ってくるのかを確認する作業なんです。生まれた瞬間の星空の様子から始まり、今運行している星の位置、未来に巡る星の位置を確かめる。その様子からどんな力が働いていくのかを見ていきます。

ですが、実際は先の物語が決まっている映画のようなものではないと思うんです。起きる出来事はだいたい決まっているんだけど、だからといって映画を見なくていいわけじゃない。というのと一緒で、起きる出来事を知っていたとしても、起きたことに対しては切磋琢磨してこなしていく必要があると思うんです。

星占いはそもそも当たる当たらないの世界ではなく、象徴としてそこに立ち現れてくるだけなので、どう活かすかはその人次第だと思っています。

ー 越智さんは人生に星占いをどのように活かしていますか。

自分自身のなかにある、攻撃性や衝動のエネルギーの逃がし方や不安に対する対処。その道しるべになってくれるものが星占いです。星占いのなかで生きる衝動の方向性を見つけられたような感覚です。

なにがこんなに不安で、なぜこんなに怒りを持っているのか。幼い頃は特にわからなかったんですよ。いつも不安だから、ものも、人も、感情も、自分が実感できるものをどんどん獲得したい、手放したくないと思って生きてきました。だけどその手のなかにあるものを手放していくことが、自分らしさや生きる上での自由につながっていくと、星占いの中で知ったんです。「なんでこんなに」や「なんでこんなことが」という感情を、星占いが緩和してくれますね。

占いは興味はあるし大好きですが、占いの世界だけを生きることはできなくて。実質的な生活があるからこそ、喜びとして占いがあって。逆に、占いがあるからこそ、実質的な生活がある。そのあいだをぐるぐる行き来する状態を楽しんでいます。

ー 星座と絡めて花束をお持ちいただきました。どんなテーマで作ってくださったのでしょうか。

「新しくて、自由で」がテーマです。今は魚座のシーズンで、次は牡羊座で、始まりを表すシーズンに向かいます。牡羊座に向かう喜びの要素などを入れて作りました。単純に星座自体の特徴を表して花束にしているのではなく、象徴として自分が感じ取っていることを今の気分で花束にしたら、という思考の巡りで作っていますね。

<着用アイテム>
Horn クラスプ 淡水パール ネックレス ¥25,300
・Orbe マラカイト×クォーツ シングルピアス ¥13,200 ※2023年4月26日発売予定
Horn シングルキャッチ ¥7,700
Zodiac イヤーカフ Taurus<牡牛座> ¥8,800
Horn バングル(L) ¥24,200
Zodiac リング Aquarius<水瓶座> ¥13,200

 

-Profile-

越智 康貴 Ochi Yasutaka
1989年生まれ。ファッションに興味を持って入学した文化服装学院を卒業後、フローリストに。2011年には「DILIGENCE PARLOUR(ディリジェンスパーラー)」を開業し、15年には表参道ヒルズに移転。東京ミッドタウンのイセタンサローネでフラワーショップ「ISdF」も営む。写真や文章の分野でも活躍している。
Instagram: @ochiyasutaka

一覧に戻る